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日々の出来事等を徒然と。偶に鬱状態になるので御注意下さい。   
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泡海ヶ原学園、屋上。
午前中の授業を終わらせ昼食を摂ろうとした殺鬼に女生徒が話しかけてきた。
その所為で殺鬼の機嫌は悪かった。
何故屋上に連れてこられたのか・・・良い迷惑だ。
「何の用だ?そろそろ出て来たらどうだ?」
殺鬼の言葉を聞いて物陰から少年が現れる。
身長も低く年齢は小f学生くらいといったところか。
「天音殺鬼さん・・・・だよね?」
少年が尋ねる。
「そうだ。」
殺鬼の機嫌など気にも留めず少年は続ける。
「君に話があるんだ~」
言い終わらない内に殺鬼が少年に訊く。
「-お前、何者だ?何故私を知ってる?・・・・・・・・お前は、人間じゃないな。」
殺鬼の質問攻めに驚いたのか少年はきょとんとしている。
そして口元を綻ばせて答える。
「御察しの通り、僕は人間じゃない。君と同じ死神だ!」
「・・・・・・」
無言の殺鬼の反応に少しムッとする。
「そんな怖い顔しないでよ~仲間でしょ?」
少年はふと「あ!」と声を上げて明るく殺鬼に訊く。
「あ、そっか~僕が名乗らないから怒ってるんだよね。
それなら自己紹介するね!僕は覇月心!宜しくね★」
心は殺鬼に自己紹介すると殺鬼に近付く。
不意に殺鬼が口を開く。
「お前・・・・何時から居た?」
殺鬼が心の目を睨む。そして続ける。
「朝、学校に着いた途端妙な気配を感じたが・・・それがお前か?」
心は驚いた様な表情をする。
が、それは一瞬で消え、不気味な笑みを浮かべながら
声を落ち着かせ殺鬼に言う。
「ふ~ん・・・気付いてたんだ・・・へぇ、凄いね~」
その言葉は挑発的で人を小馬鹿にしたような言い方だった。
殺鬼の眉間に皺が寄る。
心は屋上の柵に背を預ける。そして続ける。
「僕は、触れた人間を洗脳出来るんだ。
彼女が協力してくれた御蔭でこうして君を此処まで連れて来られたんだよ!」
心は無邪気に笑う。だがその無邪気な笑みが消える。
代わりに不気味な笑みを浮かべて呟いた。
「でも・・・・もう要らない・・・要らないモノは捨てないとね・・・」
そう言って少女の瞳を見詰める。
するとさっきまで其処で立ち尽くしていた少女がぎこちない動きで歩き出す。
少女が動く事を確認すると心が屋上の柵の外を指さす。
そして少女に手招きする。殺鬼は現状を驚いた眼で見る事しか出来ない。
嫌な予感がしたのか殺鬼が叫ぶ。
「貴様!何をする気だ!?」
殺鬼の問いかけに心はニッコリと笑って答える。
「捨てるんだよ!」
その言葉が合図だったかのように少女は心が指さす其処へ歩を進める。
そして屋上の柵を上ると虚ろな目で其処から飛び降りた。
グシャ!
肉が潰れる音。学校中の生徒、教師が音のした方を見る。
其処にはさっき飛び降りた少女の無残な姿があった。
頭から落ちた所為で脳が潰れ、目は飛び出し、顔は原形を留めていなかった。
体は形こそ残ってはいるがグチャグチャで血に塗れ(まみれ)ていた。
「キャー!人が死んでる!」
「誰か!早く救急車を!!」
「もう死んでる!救急車より警察だ!」
生徒や教師の混乱の声。その様子を見て心が笑う。
「あははは!見事に潰れたね~」
殺鬼は心の言葉には答えず、少女の無残な姿を見ていた。
あの時、洗脳されていたとはいえ少女が飛び降りる瞬間に言った言葉・・・
少女は涙を浮かべてこう言っていた『サヨナラ』と・・・
心が殺鬼の方を向く。
「さて、本題に入ろうか」
殺鬼が心を睨む。
「何故彼女を殺した?」
殺鬼の問いに心はふふふと笑った。
「愚問だね・・・・彼女の死を哀しむ事なんて無いのに。
だって、彼女は僕が手を下さなくても勝手に自殺してたさ。
クラスの奴が皆して彼女を苛めて、誰も彼女を助けてくれないんだ。
只見てるだけ・・・そんな苦しい思いをするくらいなら消えてなくなった方がマシだ。
いっそ死んだ方が楽なんじゃないかって・・・・
だから死ぬ前に僕が利用してあげたんだ!」
心が楽しそうに殺鬼に話す。まるで目標を達成した子供の様に。
が、それも矢張り直ぐに消え失せた。
「人間って、馬鹿だよね~?何処に行っても在るのは憎しみの連鎖だけなのに。」
確かに、この世界は幸福と不幸の二つで構成されていて、
幸福の裏には哀しみ嘆く人間も少なからず居るのだから。
犠牲なくしてこの世の幸福は得られない。
ならば犠牲にされた者はまた他の人間を犠牲にして
幸福を手に入れる事になるだろう。
それは自然の原理であって人間がどうこう出来るものじゃない。
犠牲なしで得られるものなど何一つ無いのだから。
そういう意味では同意だが、心の次の言葉でそれも無くなる。
「だから殺鬼は人間を辞めたんでしょ?13歳の誕生日の日に・・・」
クスッと笑う心に近づき、心の胸倉を掴む。
「貴様、調子に乗るなよ・・・用があるならさっさと言え!」
殺鬼の怒りを含んだ言葉に一瞬表情を曇らせるが直ぐに笑みを浮かべる。
「あはは!そうだったね!御免御免★」
そう言って殺鬼の手を振りほどく。
腕組みをし、人差し指を顎に突き片目を閉じて殺鬼に言う。
「実はね真龍が君と話したいんだって!
だから学校が終わったら僕が来るまで待っててね!
・・・若し先に帰ったりしたら・・・・殺鬼の大切なモノを壊すからね・・・」
唐突に目を細め、殺鬼を見据えそう言い放つ。
殺鬼は半ば呆れたように溜息を吐いてこう言う。
「つまり強制という訳か。」
「あはは!言われてみるとそれもそうだね!
でも約束さえ守ってくれたら何も酷い事しないよ!」
満面の笑みを浮かべ、心が言う。
そして柵の方を向くと・・・
「さて、僕は一旦帰るよ。じゃあまた後でね!殺鬼★」
そう言って心は空気に溶けていくかのように消えていった。
黒寿がそうするのを一度見たことがあるせいか殺鬼は特に驚きもせず、
その場を去って行った。

階段を下り、廊下を歩いていると後ろから声がする。
黒寿だ。こちらに向かって駆け寄ってくるのが解る。
「殺鬼!何処行ってたの?探したんだよ~」
「一寸屋上に行ってた」
黒寿が一瞬驚いたような表情をしたが直ぐにそれは消えた。
そして呆けたように言う。
「へぇ~屋上で日光浴してたのか!」
半ば呆れ気味に殺鬼が答える。
「・・・してない・・・」
「でも他に遣る事無いでしょ?」
やけに呆け気味の黒寿に屋上で何をしていたのかを話す。
「死神だ・・・死神の子供と放課後会う約束をしただけだ。」
殺鬼の意外な言葉に目を丸くして黒寿が言う。
「へぇ。死神の子供と約束したのか。」
間を置いて黒寿が思い出したように言う。
「でもまぁ、死神として新しい人生を歩むなら死神友達作らないとだもんね~」
(新しい人生?死神友達?)
殺鬼の中で死神に人生だの友達だのという言葉が飛び交う。
死神に人生だとか友達だとか、そんなものが存在していたという事に内心驚く。
「まぁ、頑張れ★」
そう言って黒寿が殺鬼の肩を叩く。
取り敢えず「ああ」とだけ答えておいた。
すると黒寿が携帯電話を取り出した。
黒寿が殺鬼に背を向けて携帯電話を耳元まで持ってくる。
背を向けたまま黒寿が殺鬼に言う。
「僕の従兄弟を紹介してあげるよ♪」
(別に良い・・・)
心の中でだけそう呟くと一息おいて言葉を返す。
「先に戻るぞ」
「うん!解った!」
元気のいい声で返された。
殺鬼の中で一つの疑問が脳内を占めていた。
授業中も、掃除時間も放課後まで心の言う自分の大切なものについて考えた。
だがそれが何なのか、結局答えは解らないまま放課後を迎えた。

放課後、生徒たちが次々に帰宅したり、各々の部活に向かっていた。
殺鬼は心との約束の為教室に居残った。
教室の窓から外の様子を一人見下ろす殺鬼の背後が光る。
何が起こったのかと振り返ると其処には二つの影が映し出された。
「やぁ殺鬼、待たせたね」
心の声だ。だが心の他にもう一人、少女が居る。
少女は無言で心を御姫様だっこしている。
その可笑しな光景に殺鬼が当たり前のように問う。
「・・・何でお前はそんな体勢なんだ?」
心がああ、と言って殺鬼の質問に笑顔で答える。
「ああ、これ?この体勢、楽だから・・・つい、ね★」
殺鬼が溜息交じりに「普通逆じゃないのか?」と呟く。
心が自分を抱く少女の頬に手を当て、愛おしそうに撫でる。
「紹介するよ。彼女は僕の双子の姉の心愛だよ!」
心の言葉に反応するように心愛が口を開く。
「・・・宜しく・・・」
心とは対照的に静かで落ち着いた声だった。
外見は同じなのに性格は真逆だ。落ち着いた姉と小五月蝿い弟。
殺鬼が心愛の方を向く。
「こちらこそ・・・宜しく」
すると体勢はそのままの状態で心がカードを取り出した。
それは真っ白で何も書かれていないものだった。
「さぁて自己紹介も済んだ事だし、そろそろ行こうか。」
心がそう言うと白いカードが光り出す。
その瞬間光で満ちた教室から三人の姿が消えた。

ふんわりとした感触で目が覚める。
「・・・此処は・・・・?」
どうやらベッドの上らしい。
上体を起こすと直ぐ傍の椅子に黒寿が座っていた。
「おや、起きたみたいだね」
殺鬼は黒寿が此処に居ることに疑問を抱き、黒寿に訊く。
「黒寿・・・何故お前が此処に居る?」
「あー、実は真龍と僕は幼馴染なんだ。今日は真龍に呼ばれたから来たんだよ。」
ということは此処は真龍の家という事になるのだろう。
「成程、あの光は私達を瞬間移動させたというわけか・・・」
「正解!」
「・・・・。」
黒寿が元気にそう言うと殺鬼は黙り込んだ。
「まぁ少し待ってればあいつ等も来るだろうから待ってよっか。」
黒寿がふぅと一息ついた時だった。
不意に殺鬼が黒寿に自分の中で渦巻く疑問を投げかけた。
「黒寿・・・お前には大切なモノがあるのか?」
一瞬の沈黙。だがそれを破ったのは黒寿の方だった。
「殺鬼は変な事を言うね。大切なモノか~そんなモノ、今はもう無いね」
此処でまた一つ疑問が浮かぶ。
(『今はもう』・・・という事は昔は大切なモノがあったのか・・・・・)
扉にノック音が響く。
殺鬼と黒寿が扉の方を向くと真龍の声がする。
「黒寿~入るよ~」
そう言って扉が開く。真龍の他に心愛と心が一緒に入って来る。
「ようこそ、天音さん。良い夢は見られたかしら?」
殺鬼が不機嫌そうに声を低くして答える。
「夢なんて見てない。大体此処に来たのは強制されたからだ。
まぁ、そんな事は動でも良い。話とは何だ?」
急かすように殺鬼が言うと真龍がふふっと笑って椅子に座った。
「この子たちの事だけど、訊いたかしら?」
「名前は訊いた。」
真龍が一瞬詰まらなそうな表情をしたがまた一瞬で笑みを浮かべる。
「そう、じゃあこの子たちの能力はまだ御存知ないようね」
「能力?」
殺鬼が首をかしげて考え込む様子を心が嬉しそうに見ている。
「僕たちの能力、知りたい?」
心の瞳が輝いている。そんなに知ってもらいたいものなのだろうか?
だが殺鬼の返答を待たずに心が話し始める。
「僕はね、人間の精神を刺激して操ることが出来るんだ!でも安心して!
利用する人間は皆死が目前の奴ばっかだから問題にはならいんだ!」
得意げに自分の能力について説明する心に半ば呆れていると
心がまた新たに説明を始める。心愛の能力についてだ。
「心愛はね、動物や植物、人間の心の声が読めるんだ!
だから今何考えてるのかとか直ぐに解るんだ!」
心が心愛に身を寄せて説明を終えると真龍が付け加えてこう言った。
「そう、心愛と心は二人揃ってこそ本来の力を発揮する。
私自慢の天才姉弟なのよ!」
天才と言われてか、心がへへっと笑っている。
心愛は相変わらずの無表情だ。
「・・・で話はそれだけか?」
殺鬼の表情が少し曇っているのを見て真龍が慌てて本題に入る。
「そう怖い顔しないで。さて本題に入りましょう」
真龍が一息置いて話し始める。
「さて、天音さんは死神とは何なのか解りますか?」
殺鬼が溜息交じりに答える。
「人間の惨劇の処理と不幸の回収」
「その通りですわ!でも・・・」
真龍が再び一息置いて続ける。
「惨劇は処理しても生まれ、不幸は回収しても溢れる・・・
それは人間が『希望』という消えてしまいそうなチャンスを掴もうとするからよ。
そしてそれは永遠に与えられ続け、人間はそれを永遠に求め続けるわ。」
「与える者・・・天使か?」
「そう。天使は人間に幸福を与え、失くしてしまえば今度は希望を与える。
まぁそれが仕事なんですけどね・・・。」
此処で真龍の表情が曇る。
「奴等は神の命令さえあれば私達死神までも消しに来るわ。」
真龍が腕組みをし、目を細めて続きを言う。
「勿論、奴等が攻撃をしてきたら私達も戦うわ。
でも奴等は死神が一人になった時に襲ってくる・・・それも集団で・・・。
幾ら私達の方がランクが上でも油断すれば消される・・・・」
間をおいて真龍が黒寿を指さして言い放つ。
「つまり、一人暮らししている死神は直ぐに標的にされるって事よ!
だから黒寿は天音さんのアパートの隣部屋に住んでね。」
真龍の唐突な提案に目を見開き思わず「え?」と声を漏らす。
「え?じゃないでしょ!契約者を守るのも仕事でしょ!
大体女の子を守るのは男の子の役目でしょ?」
黒寿の抗議の隙も与えず真龍の止め(とどめ)の言葉が突き刺さる。
「それに住む所ちゃんと決めないと仕事に支障が出るでしょ?
そんなんじゃ御姉様やお母様に叱られて家から追い出されちゃうわよ?」
言葉に詰まった黒寿が複雑な表情で殺鬼を見る。
殺鬼が微妙な表情で真龍に問う。
「話というのはそれだけか?」
「ええ。今日はもう遅いですし、帰ってくださって構わないですよ?」
「そうか。」
そう言って殺鬼はその場を後にした。殺鬼の後を黒寿も付いていく。

殺鬼がアパートの空き部屋はないか
管理人に尋ねるのを黒寿は扉の傍で見届けていた。
このアパートは住人がまばらに住んでおり、
此処に住みつく人はあまりいない。
人混みが嫌いな殺鬼の為に父親が用意した
殺鬼にとって都合のいい場所だった。
殺鬼が管理人と交渉を済ませると黒寿をその部屋まで案内した。
「手続きは済んだ。丁度隣の部屋が空いていたから
其処に住むと良い・・・だそうだ」
「ん、有難う!」
案内された部屋に辿り着くと黒寿は満面の笑みを浮かべて殺鬼を呼ぶ。
「殺鬼!手続き有難う!また明日ね!」
「ああ、また明日な。」
素気なく返し、自分の部屋に入ろうとすると不意に何かが見えた。
嫌な予感がして再びアパートを後にする。

泡海ヶ原公園の裏道、二つの影がある。
一つは横たわる影に何かを振り翳し何度も突きたてる。
「誰ガ私ヲコワシタノ?」
振り上げたそれは銀色に輝いていたが赤黒い液体で鈍く光っていた。
「ネェ誰ガ私ヲ壊シタノ?」
返答のないただ横たわるだけの体に何度も鋭い光を放つそれを突き立てる。
「訊いても無駄だ・・・もうソイツは死んでいるからな。」
黒衣を纏った殺鬼が現れた。刃物を突き立てる少女に近づく。
「やはりこの世に未練があったようだな・・・・」
少女は殺鬼の方を振り返る。
その少女は今朝屋上から飛び降りさせられた少女だった。
この世に未練のある怨霊と化した少女は殺鬼に静かに言葉を返す。
「死神・・・・サン?」
怨霊の少女は立ち上がると殺鬼の方に向かいなおして殺鬼に問う。
「何故コンナ時間ニコンナ所ニ居ルノ?」
「・・・・お前を迎えにきた」
「迎エ?」
「そうだ。お前は既に死んでいる。だから迎えに来た。」
その言葉を訊いた怨霊の少女が顔を伏せて震える声を絞り出して呟く。
「・・・・ソウ・・・・ヤッパリ私・・・死ンダノネ・・・」
少女のナイフを握る手が震える。声も同調するように震える。
「何モカモ解ラナイママ・・・・」
少女は両目から赤い涙を溜めて殺鬼に不安そうな表情で尋ねる。
「死神サン・・・・私ハ・・・・生マレ変ワッタラ・・・・幸セニナレル・・・カナ?」
「・・・・・・・。」
その問いに殺鬼は黙り込む。
数秒考えた後相手を落ち着かせるように問いに答える。
「ああ・・・今回は駄目だった分、きっと幸せになれる。だから私と来い。」
そう言って少女に手を差し伸べる。
少女はやはり不安なのか半信半疑で再度尋ねる。
「本当・・・デスカ?」
「ああ」
短く答えると今度は相手に誘導するように言う。
「私の手をとれ。」
少女は疑うことを止めた(やめた)のか「ハイ」と返事をして殺鬼の手をとろうと
小刻みに震える手を重ねようと近づける。
二人の手と手が触れ合おうとするまさにその時だった。
「甘いね」
「!?」
背後から声がして少女から気をとられたのが間違いだった。
空気を突く音が聞こえた。それは少女の脳を貫通していた。
頭蓋骨を見事に貫き、脳を抉るそれは一般家庭に置いてあるフォークだった。
普通のものと違うのはそれが異常に巨大である事だった。
少女がカタカタと壊れた薇仕掛けの人形のように震えだす。
「何・・・コレ・・・・?痛イ・・・痛イヨ・・・」
少女は殺鬼に助けを請うように手を伸ばす。
殺鬼は硬直した状態で少女を見る事しか出来なかった。
「痛イ・・・死神サン・・・助ケテ・・・」
ピシピシと少女の顔や体に罅が入る。
少女は声を発することも出来なくなったのか
口をパクパクと動かしてこちらを見詰める。
もう何を言っているのかすら解らない。
口を動かせば動かすほど罅が入り、そしてそれは脆く壊れた。
硝子を割ったような音が辺りに響き渡る。
それを見届けた殺鬼が後ろを振り向く。
「くくく・・・あの人間の怨霊の顔・・・
死んだ後なのに命乞いするなんて馬鹿だよね~」
その声には聞き覚えがあった。
「それにしても殺鬼は優しいね。相手はもう死んでるのに・・・・
黒寿と契約するくらいだから直ぐに消すかと思ったけど・・・」
「いい加減そのお喋りな口を閉じたらどうだ?心・・・」
それは夕方会った双子の弟、心だった。
「こんばんは、殺鬼。」
殺鬼の声が低くなる。
「貴様・・・あの子は大人しく私と死後の世界に来ようとした・・・・
お前は無抵抗の相手を斬殺して楽しいのか?」
心は巨大なフォークを一振りして殺鬼に微笑む。
「うん!楽しい♪」
その答えに殺鬼の中で何かが切れる音がした。
「お前とは気が合わないようだ・・・」
低く冷たく呟くと心は再び笑みを浮かべて明るく言う。
「アハハ!何でそんな事言うの?僕達は死神同士で仲間なのに~」
その言葉に反応するように殺鬼が
黒衣に隠された日本刀を心の首筋に当てる。
少し動かせば切れてしまいそうなほどに距離を詰めて。
「これ以上言うと斬るぞ・・・」
殺鬼のその言葉に少し驚いたような顔をするが口元が笑みを作る。
「ふふ・・・そんなに怒らないでよ。そんな事されたら・・・」
言い終わらない内に何かの物音がしてそちらに日本刀を一振りする。
金属が触れ合う、冷たい音が響く。
「くっ」
それは心が持っていた巨大なフォークだった。
反応が遅れていたなら今頃脳天が砕けていただろう。
心が不気味な笑みを浮かべて言う。
「殺したくなっちゃうよ」
心の瞳は狂気に満ち巨大なフォークをブンブンと振り回す。
そして互いに身構え刃を交えようとした時だった。
ガッシャン!
「其処までだ」
日本刀とフォークを片手で受け止め、心愛が言う。
何時の間に現れたのか?
「心愛!?」
心が焦ったように呼ぶ。
「心、悪巫山戯が過ぎたようね・・・」
「退いて(どいて)よ!ここからが本番なんだから!」
駄々をこねる子供のように心愛に抗議する。
だが心愛はそんな事など気にも留めずに言う。
「なら明日のオヤツは無しね」
その一言に妙に焦り出した心が急いでフォークを引く。
「わ、解ったよ!帰れば良いんだろ!!」
「そう」
姉弟というよりもそれは親子のようなやり取りだった。
殺鬼はその様子を黙って見ていた。
心愛が心の手を引き、すぅと消えていく。
そして心愛が消える直前に殺鬼に一言だけ言う。
「迷惑、かけたな・・・それじゃあまた・・・」
「ああ」
殺鬼はふぅと溜息を吐きながら自宅に向かって歩き出す。

家のベランダに飛び移ると窓を強引に開け、自室に入る。
汗をかいてしまった為軽くシャワーを浴びて
髪を結んで自室のベッドに倒れこむ。
殺鬼が眠りにつくと自室の窓があく。
「お仕事、お疲れ様。お休み、殺鬼」
黒寿だった。
そう言って安心したように黒寿は自室に戻った。

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暗がりの中少女は大鍋を掻き回していた。
「真龍、何作ってるの?」
真龍は後ろを振り返り笑みを浮かべ其処に立つ双子の名を呼ぶ。
「あら、心愛に心。今実験中なの!」
心が聞き返す。
「実験?」
「そ、実験!」
二人は真龍が掻き混ぜる鍋を覗き込む。
中は小麦色の液体が満たされている。
すると真龍は自分の腕にナイフを突き立てた。
そしてグリグリと抉る。
二人は特に動揺する様子はなく真龍に訊く。
今度は心愛が言う。
「楽しい・・・?」
その問いに真龍はニコやかに答える。
「ええ、楽しいわよ。」
すると真龍はさっき抉った腕から滴る血を鍋に入れる。
「これで完成♪」
真龍は嬉しそうに自分の作った鍋の中のモノを見る。
瞬間鍋の中のモノが光った。
そして鍋の中のモノはグネグネと蠢き始め次第に形を作り出す。
それが何の形になるのか感付いた心愛は真龍に訊く。
「これ・・・真龍の人形・・・?」
心愛の言葉に一瞬驚くが流石ねと言うような表情で答える。
「そうよ。これで実験が出来るのよ!」
真龍の形を持った人形に真龍が話しかける。
「起きなさい。」
真龍のその言葉に反応したかのように人形は閉じていた眼を開く。
真龍は声が聞こえている事を確認すると人形の頬に手を当て続ける。
「お前には調べて貰いたい事があるの。新しく死神になった天音殺鬼について・・・
あの子の実力が知りたいの・・・だから、彼女を少し甚振って頂戴。」

殺鬼が通学路を歩いていると後ろから声がした。黒寿だ。
「やぁ殺鬼。今日から夏服だね~何だかドキドキするよ!」
殺鬼は溜息混じりに「ああ」と返す。
黒寿が一体何にドキドキしたのか、夏服とはそんなにも珍しい物なのかと
脳内では黒寿の言葉の意味を考えたが、動でも良いと思い考えるのを止めた。
「さ~て行こうか!」
黒寿のテンションの高さに鬱陶しさを覚えたが気にするのも面倒なので言わない事にした。
不意に何かの視線を感じ振り返る。だが後ろには誰も居ない。
殺鬼は疲れているのかと思い頭を掻く。
「如何したの?」
殺鬼の様子が気になってか黒寿が尋ねる。
殺鬼は誰かの視線を感じた様な気がしたとは言わず一息おいて答える。
「-・・・何でも無い。」
殺鬼達が立ち去るのを確認すると木の上から視線の主が現れた。
殺鬼の姿を確認するとぽつりと呟く。
「ターゲット・・・確認・・・・」

学校に到着すると殺鬼は黒寿と教室に向かう。
殺鬼が席に着こうとすると前の席の絆の様子が可笑しい事に気付き、声を掛ける。
「・・・絆・・・?」
絆は机に突っ伏したまま動こうとしない。再度声を掛ける。
「絆?如何した?」
「あ。」
殺鬼の声が聞こえたのか絆は気だるそうに伏せていた上体を起こす。
顔を上げた絆の眼は半眼状態でいまにも眠ってしまいそうだ。
殺鬼の問い掛けに答える。
「何か、朝から調子悪くてな・・・」
「風邪か?」
「違う・・・」
間をおいて話を続ける。
「風邪とかそういうのじゃなくて・・・・変なんだ。」
「どういう風に変なんだ?」
「何か何時もちゃんと起きれるのに今日は中々起きれなかったし・・・・
家の廊下で滑って転ぶし・・・不良に絡まれるし・・・」
「だらしないだけじゃないのか?」
「んな事はない!」
「不良は倒したんだろう?」
「まぁな。暫くは歩けねぇだろ。」
「良かったな」
「・・・・けどやっぱ可笑しいぞ。昨日までこんな事なかったのに・・・
何かに呪われてんのかな?」
「!?」
絆のその一言に反応したのか急に殺鬼が尋ねる。
「絆・・・」
「何?」
「今日、絆の家に行っても良いか?」
突然何を言い出すのかと思ったが突っ込む気力も無いので
疑問抱いたまま答える。
「?別に良いけど・・・」
「そうか-・・・」
そう言って殺鬼は自分の席に座った。

昼休み。黒寿が殺鬼に言う。もう何度目かも解らない言葉を。
「殺鬼・・・・何度も言うけど時間厳守だよ。」
「くどい!何度も言われなくとも解っている!」
同じ事を何度も言われた所為か殺鬼は不機嫌だ。
折角の昼食も美味しく思えない程不愉快だった。
黒寿に絆の家に行くと言った途端に時間厳守だと言いつづける。
今朝はあんなにも上機嫌だったのに・・・
「草凪絆が気になるの?」
「まぁな」
「だから調べに行くの?」
「ああ」
「時間厳守だよ!」
「解っている・・・・」
殺鬼の機嫌等気にする事も無く訊く。
殺鬼は何時もより素っ気無く答える。

放課後、昇降口で殺鬼は絆と合流。
二人は特に何か話すわけでもなく唯草凪家に向かって歩くだけ。
道行く人が無口なカップルね~となどと言っていっても気にも留めない。
それ程二人は疲れているのだろう。
暫くすると草凪と書かれた表札が見えた。
どうやら此処が絆の家らしい。
全体的に白く、庭には緑が満ちていた。
車庫があるが絆の両親は海外出張などで殆ど家に居ないので
車庫は倉庫代わりになっている。
玄関まで案内され家の中に上がると無言のまま棒立ちしていた。
「そんな所に立ってないで座れよ」
「ああ」
絆がちょいちょいと手招きする。
手招きに応じて絆の座るソファーに腰掛ける。
「何か飲むか?」
「ああ」
「何にする?」
「何でも良い」
「何でも良いって・・・」
殺鬼の何時にもまして素っ気無く少ない言葉に如何したものか頭を掻く。
「まぁ良いか。一寸待ってろ」
「ああ」
絆の質問よりも絆の家の物を見る。
さっきから返事が素っ気無いのはその為だ。
リビングには特に怪しい物は無く気にしすぎたと溜息を吐く。
(怪しい物は無い・・・だがこの空間は明らかに外の空間と違う・・・
何か手掛かりは無いのか・・・)
殺鬼が考え込んでいると玄関から声が聞こえる。
「只今~」
幼げな少年の声だ。
廊下を歩く足音が近付いて来る。
歩幅がせまいのか歩数が多い。だが音は小さい。
扉をゆっくり開けるその小さな少年を見る。
「ん?聖帰ってきたのか?」
扉が開く音で気付いたのか紅茶の準備をしていた絆が手を止める。
再び紅茶を淹れる準備をしてリビングへ向かう。
「天音~飲み物持って来たぞ~」
殺鬼が振り返る。
「ああ・・・済まないな・・・それより絆この小さい子は?」
「あ~聖だよ。俺の弟だ。」
聖と呼ばれたその少年は上目遣いに殺鬼を見詰める。
確り手入れされたサラサラの茶毛に大きな蒼い眼、細い体・・・・
「あの、草凪聖です。」
そして少年独特の甘い声。
「天音殺鬼だ。」
殺鬼は名前だけを言うと、再び聖の目を見る。
吸い込まれそうな、何処か脆そうな・・・
「あの、本当に天音皐月さんですか?」
思わぬ言葉に驚く。
皐月は聖と関わった覚えがない。もし関わっていたなら今の自分に受け継がれる筈だ。
それとも本の一時の関わりで受け継ぎ損なったのか?
継承不慮なら修正しなくてはならない。今新たに聖の事を己に書き綴らなければ・・・
聖の額に手を乗せようとした時だ。
「おい、睨めっこはそこまでにしろ。」
絆が紅茶の入ったコップを押し付けてきた。
「取り敢えず、飲め。」
二人とも無言のままそれを飲んだ。
「で、何でまたウチに来たいなんて言ったんだ?」
「調べ物だ。」
「何を調べるんですか?」
おどおどしながら聖も質問する。
「絆の身の周りの不思議についてだ。」
「兄さんの?」
「ああ」
殺鬼は事情を聖に話す。話さなくても解っていただろうが此処は説明すべきだろう。
「何か原因となるものに覚えはあるか?」
「特にねぇな」
すると聖がうーんと考える仕草を見せた。
「如何した?」
「原因かは解らないけど・・・お兄ちゃんが不調なのって今日からですよね?」
「ああ」
二人でそう答える。
聖は少し困ったような顔をして上目遣いに答える。
「あのね、昨日学校の帰りに泡海ヶ原公園に行ったんだ。そしたらねこれを拾ったんだ・・・」
聖はリビングにあった箪笥の中から水色に輝く石のつたペンダントを出すと、
二人の前に差し出し説明を続けた。
「僕、昨日悲しい事があって、それで泡海ヶ原公園にいったんだ。
それでベンチに座ってたらこれが落ちてて・・・最初はどうしようか悩んだけど・・・
御巡りさんに渡したんだ。でも・・・そしたら御巡りさん・・・体調崩して・・・
迷惑だったらいけないから持って帰っちゃた・・・
そしたら今度はお兄ちゃんが大変な目に遭って・・・御免なさい・・・」
大きな瞳から大粒の涙が溢れ出す。
よっぽど罪悪感があったらしい。
「気にすんなよ。俺は大丈夫だから・・・な?」
「で・・・・でも・・・」
「大丈夫だからもう泣くなよ」
微笑ましい光景だ。兄弟が互いを大事に思い合い、支え合っている。
自分もああなりたかったと無意識の内に思っていたが気の迷いだと誤魔化す。
「絆、聖、これ貰っても良いか?」
「え!?」
殺鬼の言葉に驚く聖。
「もしかしたら絆の不思議現象が無くなるかも知れない」
「で、でももしそれで天音さんが大変な目に遭ったら・・・」
「大丈夫だ。」
「兄さんも何か言ってよ!」
「・・・・・・天音が良いなら良いんじゃねぇの?」
「兄さん!?」
「けど、無理すんなよ?危ないと思ったらそんな物騒な物、捨てちまえよ?」
「ああ。」
「でも・・・」
聖が不安そうな表情で見る。
殺鬼は手を聖の頭に乗せ、軽く撫でる。
「大丈夫だ。私は運になど負けない・・・。」
「本当ですか?」
「ああ。それと・・・少し、良いか?」
「?はい・・・」
聖がそう言うと殺鬼の聖の頭に乗せた手が圧力をかける様に重くなる。
瞬間、聖の意識が遠のく。
殺鬼の脳内に皐月と聖との出会いが再生される。

聖は泡海ヶ原公園の片隅で泣いている。
どうやら怪我をしているらしい。
『う・・・・くっ・・・・・・痛いっ・・・痛いよぉ・・・・・・
何で・・・・・僕は何も悪い事・・・・・・・・・してないのに・・・・・・・』
『ねぇ、君そんな所で何してるの?』
(成程・・・この時に接触したと言う訳か・・・)
『何処か痛いの?』
少し怯え気味に聖が答える。
『だ、大丈夫・・・です・・・』
『あ』
『!?』
『足、見せて!』
『え?あ!?』
『やっぱり怪我してる!早く手当てしないと・・・』
そう言うと皐月は聖の足にハンカチを巻いた。
『これで良し!今度は気をつけてね!』
『あ、有難う御座います・・・』
皐月の優しさに心を開きつつ、聖が訊く。
『あの、お姉さんは何か悩み事とかあるの?』
皐月は少し間を置いて答える。
『私ね・・・お母さんに嫌われてるの・・・』
『え!?』
想定外の回答に戸惑う。
こんな事を言われても小学生の心は痛むだけでどう言えば良いのかさっぱり解らない。
皐月はそんな聖の顔を見て少し優しく話す。
『理由は解らないの。何故嫌われているのか・・・・お母さんと居るのは正直辛い・・・。』
少し息を吐いて続ける。
『だから殆どお母さんとは話さないの・・・御免ね、こんな話して・・・』
『良いんです。僕が話してって言ったんだし・・・。』
『さて、そろそろ帰らないと・・・』
『あ、あの・・・』
『何?』
『名前、教えて下さい・・・』
皐月は少し照れて自分の名前を言った。
『私は天音皐月!君は?』
笑顔で答える皐月に照れて聖も言う。
『僕は、草凪聖・・・・です!』
そこで二人の接触した記憶が途絶えた。

「成程・・・そういう事か・・・」

殺鬼が手を離すと聖は我に返る。
「さて・・・そろそろ帰るか・・・」
殺鬼が鞄を持って玄関に向かおうとして不意に絆に話しかける。
「絆、・・・紅茶、旨かったぞ」
絆は少し照れているが殺鬼は絆の方を見ていないのでそれは解らない。
「あ、ああ。そりゃ良かった」
「また明日、な。」

「さて、問題が一つ解決した所で・・・・」
草凪家を出て少し歩くと不意に殺鬼が黒衣に身を包む。
日本刀を片手に誰も居ない筈のその場所に話しかける。
「好い加減出て来たらどうだ?」
返答は無い。殺鬼は日本刀を構えて言う。
「・・・出て来ないのならこちらから行くぞ!」
すると何かの気配を感じ咄嗟にその方向に日本刀を向ける。
木の枝から女が降って来た。
女はナイフを片手に殺鬼に襲い掛かって来た。
殺鬼はナイフによる攻撃を日本刀で防ぐと無防備な女の腹を勢い良く蹴る。
吹っ飛んだ女の体を一太刀で切り刻む。
あっさり片付いてしまった事に拍子抜けしたのか散らばった女の体の一部を見る。
「-これは・・・人形?」
それはよりリアルに作られた人形だった。血も出なければ臓物も無い。
あるのは外見の形だけ。
不意に人形の顔が笑った。
「掛かったな・・・」
「!?」
すると先程切り落とした人形の腕が後ろから飛んできた。
不意打ちだったせいか振り向く前に人形の手に腕を掴まれた。
前方からはもう一本の腕がナイフを持って突進して来る。
(片腕が動くなら・・・)
襲い掛かって来たナイフを片手で掴み、力強く握る。
そして足元に転がっていた人形の首を蹴り飛ばす。
そして首が吹き飛んだ方向に持っていた日本刀を投げる。
投げた日本刀が人形の額に刺さる。
あたった事を確認し、人形に近付く。
「ほう・・・そこからは血が出るのか・・・さて、質問に答えて貰おうか・・・」
そう言いながら人形を見下す殺鬼の背後から少女の声が聞こえる。
「フフフ・・・・随分乱暴なのね。天音さん。折角貴方の為に血を分けて作ったのに・・・
こんなにして・・・・・」
「!?」
人形の方を見ると人形は砂になっていた。
さっきまで人の形をしていたあの人形が今は面影すらない砂に・・・
「砂!?」
「そうよ。あの子は砂と私の血で出来てたの」
不意にある疑問が浮かんだ。殺鬼は少女に問う。
「・・・・何故お前は私の名前を知っている?何故人形で私を襲った?お前は・・・誰なんだ?」
「質問が多いわねぇ。まぁ良いわ。
人形で貴方を襲ったのは貴方の実力が知りたかったから。
貴方の名前を知ってたのは風の噂・・・かしらね。
それから私の名前は綺羅畏真龍よ。死神界の人形師をしてるの!宜しくね!」
そこまで訊くと殺鬼が再び問う。
「-・・・お前・・・人間界に居座る気か?」
真龍はふふふと笑って質問に答える。
「ええ。アッチは退屈だし・・・・此処に居た方が楽しそうだし!
何より・・・・・貴方も居るしねぇ・・・」
その言葉に一瞬呆ける。
「大丈夫!私は敵じゃない!寧ろ仲間なの!」
笑顔でそう告げる真龍。実感が沸かないのか複雑な心境の殺鬼。
「敵は・・・あの小憎たらしい天使よ!」
一瞬真龍の表情が変った事に驚くがそれ以上に考える事があった。
(仲間?コイツが?信じても良いのか・・・天使?)
数々の疑問を秘めたまま真龍の「また明日会いましょう」と言う言葉で別れた。

自宅に戻ると黒寿が部屋で本を読んでいた。
「黒寿。」
「おや、お帰り殺鬼!まだ2時間30分だよ?早いね~」
「『まだ』ではない。『もう』だ。」
黒寿のボケに突っ込みを入れると早速絆から貰ったペンダントを差し出した。
「これは何だ?」
「ん~?」
寝惚けた顔がペンダントを見て見開かれた。
「おやおや・・・何か凄いもの拾ってきたね~」
「凄い物?」
疑問を抱く殺鬼にペンダントの事を説明する。
「うん。これはね~『幸吸引石(こうきゅういんせき)』っていって人間を不幸にする石なんだ。
本来幸と不幸は平等に人間の周りに存在するんだ。
でも幸吸引石を持っていると幸を吸い取ってしまうから
これを持ってる人は忽ち不幸になるんだ!
まぁペンダントになってる所を見ると死神の落し物だろうね。」

その夜、暗い街を赤毛の少年が息を切らせて走る。
「あ~如何しよう・・・見つからないよ~・・・・僕のペンダントが・・・」
少年は一度立ち止まり息を吸う。
「このまま見つからなかったら如何しよう・・・」
今にも泣き出しそうな声で呟く。
「し、仕方無いな・・・余り使いたくなかったけど・・・・」
少年は左手を差し出し呟く。
「僕の忠実なる僕(しもべ)よ、僕の落としたペンダントを見つけて!」
その言葉を言い終わると少年の左手から何かが現れた。
「これで・・・大丈夫・・・かな?」

翌朝。
殺鬼は絆の家に迎えに行った。そして昨日何か起こったか尋ねる。
「あの後は特に何も無かったぞ。けど、今迄失くしてた物が見付かったな。」
「そうか、なら良い。」
絆の言葉に安堵すると今度は絆が殺鬼に尋ねる。
「天音は何か起きたのか?」
「いや。何も起きてない。」
結局、あれは誰の落し物なのか・・・・何故落としたのか・・・・謎は深まるばかりだった・・・・
そして今日も真龍と会わなければならない。
昨日と同じ場所に同じ時間会うと約束したからだ。
これからの事について伝えたい事があるらしいので断りもしなかったが・・・
(解らない事だらけだ・・・だが奴に会って何か謎が解けるならそれは良い事だ・・・)
その時慌しい足音が聞こえた。
「あわわわわわ!大変だ~!」
ドンッ!
「!?」
「わぁ!?」
少女漫画のワンシーンの様に見事にぶつかった。
殺鬼は考え事をしていたせいかその場に尻をつく形でこけた。相手も同様にこけた。
「天音!?大丈夫か!?」
絆の心配を他所に「ああ」と何のリアクションも無く素っ気無く答える。
少年が慌てて立ち上がり謝罪の言葉を述べる。
「わ、わわわわ!御免なさい!すすす済みません!」
混乱しているのか何度も謝っている。
「いや、私もボンヤリしてたからな。悪かったな」
「いえいえ・・・怪我はありませんか!?」
「無い。」
少年は殺鬼の言葉に安心したのか口調が落ち着いてきている。
「そ、そうですか。あの、本当に御免なさい!」
「いや、問題無い」
「そうですか?」
「ああ」
それでも矢張り謝罪の言葉は消えないが殺鬼は全く気にしていない。
突然少年が何かを思い出して声を上げる。
「あ!」
「何だ?」
「あの僕、急いでるんでそろそろ行きます!」
「ああ」
立ち去り際、少年は殺鬼の方を振り返り、笑みを浮かべて言う。
「それじゃ!」
「・・・・何だったんだ・・・・今のは?」
「おい、天音!遅刻するぞ!」
「ああ。」
殺鬼の脳内はモヤモヤしていたが今はそれどころではない。
急いで学校へ向かわなければ面倒だ。

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契約から数日後。

殺鬼は一人暮らしを始めた。
殺鬼自身、母親と一緒には居たくなかった。
母親の所為で自分は精神的に追い込まれたのだから。
殺鬼からすれば些細な事だが皐月からすれば可也のダメージだった。
嫌味や不満しか言わない母親が嫌いだった。
そして強くなるために死神と契約した。
人間である事を捨てて・・・・
皐月だった時の暖かさはもう消え失せていた。
一人暮らしをするという手紙を母親に出した時、返事は思ったとおりだった。
止めて欲しい訳ではない。
だが返事が無責任なのも確かだった。
マンションは父親が手配してくれたので問題ない。
家具や私物が次々と送られる。
唯それを部屋に置くだけ。
形だけの一人暮らしだった。

学校に殺鬼が行く様になって学校誰もが驚いた。
当然だ。自分はもう人間だった『皐月』ではない。
此処に居る連中は皐月の事しか知らない。
何故なら今迄皐月という人間だったからだ。
名前は文字にしなければ違いすら解らない。
読みは同じ『さつき』なのだから当然だ。
皐月として生きてこの学校という所に通い、勉学に励んでいた・・・・
勉強が好きだった訳じゃない。
勉強すれば母親に褒めて貰えると思ったから遣っていただけだ。
それ以外に理由なんて要らない。
皐月は良い子だった。
どんなに母親に貶されても反抗は全くしなかった。
きっと今の自分なら母親を責めただろう。
「お前はそんなに完璧だったのか?」と。
今学校ですべき事、それは勉強だ。
他の事に興味を持ってない殺鬼が唯一遣るべき事がそれだ。

教室に入るとクラスの誰もが驚いていた。
明るく挨拶をしていた皐月が今は無愛想に挨拶も無く自分の席に座るという
信じられない光景を目にしたのだから。
クラスの女子が一人殺鬼に駆け寄る。
「お早う。皐月ちゃん!如何したの?体調悪いのかなぁ?」
必死に殺鬼と話そうとする彼女に苛立ちを覚えたのか殺鬼は眉間に皺を寄せて
彼女にこう言った。
「五月蝿い。」
唯一言そう言った。
「え?」
彼女は呆気にとられた表情でそう言った。
周囲のクラスメイトも目を見開いて殺鬼の方を見ている。
「黙れと言ったんだ。」
相変わらずの低音でそう言うと教科書の方に視線を移す。
「皐月ちゃん、そんな言い方しなくても・・・」
「五月蝿い!!」
彼女が言い終える前にそう言った。今度は力強く。

それが殺鬼として初めて学校に行った時の事だった。

今はクラスの誰も「皐月ちゃん」とは呼ばないし、話し掛けもしない。
あの日の警告を誰もが聞いているからだ。
殺鬼に話し掛けなければ何も言われない、それが解っているから誰も
関わろうとしないのは当然の反応だ。
ただ一人を除いて・・・・
「よう、天音」
皐月の幼馴染の草凪絆である。
もっとも、今は皐月ではなく殺鬼だが。
「絆か。」
殺鬼が特に嫌がらないのは彼からの言葉に『無理』が無いからだ。
自分と話す相手が『無理』をしているのが気に喰わないからだ。
そんな殺鬼にとって絆は唯一の話し相手である。
「お前、一言が短いな。偶にはお前の方から話題を振れよ。」
「現在の経済状況について・・・」
「いや、やっぱ遠慮する。経済状況って・・・」
「なら最近起こった事件について・・・」
「待て!だから何でニュースの事ばっかり話そうとすんだよ!堅苦しいぞ!」
「他に面白そうな話題が無い。」
「日常の有触れた事で良いだろ。」
「そうか?」
こんな感じで会話は続く。
お互い最初こそぎくしゃくしていたが今はそうでもない。
相性が良いのだろう。
「転校生が来るらしいぜ」
「転校生?」
絆の言葉に興味を抱いた訳ではないが疑問は抱いていた。
この中途半端な時期に転校生が来る。
何故この学校を選んだのか、何故こんな時期にしたのか等と色々疑問を抱くのだ。
それは言い換えるならば『興味を持つ』・『気になる』と言うのが正しいだろう。
「ああ。然もこのクラスに来るらしいぜ。」
「物好きだな。」
「お前、このクラスを何だと思ってんだよ・・・。」
「只の1年1組だ。」
「・・・そうだけど。」
そうこうしてる内担任が教室に入って来た。
「はいはい皆席に着いて~」
ガタガタと音を立て、生徒達が自分の席に着く。
「このクラスに転校生が来ました~皆優しく接して下さいねぇ~」
担任がそう言うと生徒達が騒ぎ始める。
お約束だが皆美形を期待している様だ。
「入っておいで~」
担任の合図で教室に入って来た転校生にクラス全員の視線が移される。
「初めまして。儚射黒寿です。宜しくね!」
それは間違いなく殺鬼の契約相手の黒寿だ。
死神の彼が如何してこんな所に居るのかと考えたが直ぐに思惑が掴めた。

「席は、じゃあ天音さんの隣が空いてるから其処にしよう」
「はい!」
瞬間クラス全員がギョッとした。
転校初日に彼が傷付かないだろうかと誰もが心配した。
そんな心配をよそに黒寿は上機嫌で殺鬼に話し掛ける。
「天音さん!これから宜しくね!」
「ああ。」
相変わらず無愛想に言う。
要点しか言わない性格なので言う事も一言だ。
「僕の事は黒寿って呼んでね!」
「ああ。」
必要最低限の事以外は喋らないので殺鬼と会話を続けるのはある意味難しい。

休み時間。
クラスの女子達が黒寿を囲む。定番の質問攻めだ。
「儚射君って何処から来たの?誕生日は何時?」
「好きな物は?趣味とかも知りたいなぁー!」
「あははは。質問が多いなぁ。」
遠回しに面倒臭いと言っているように聞こえたのは殺鬼だけだろう。
「ねぇねぇ何処住んでるの?教えてー!」
「御免ね、そういう情報は教えられないんだ。」
「えー」
女子達の詰らなさそうな反応。黒寿は少し間を置いてこう言った。
「でもその代わり良い事を教えてあげる!」
「え?何何?」
興味を持ったのか女子達の眼が輝いている。
「それはねぇ・・・・・」
ガシッ!
「え?」
黒寿が言い終わる前に殺鬼が黒寿の肩を掴んだ。
その手に力が篭る。
「少し、御喋りが過ぎるんじゃないか?」
「へぇ?君が僕に忠告なんて珍しいね?」
「言いたい事はそれだけだ。」
そう言うと黒寿の肩を掴む手を離す。
「儚射君、大丈夫?気にしなくて良いよ。天音さん、何時もああだから・・・」
「うん。大丈夫だよ。一寸痛かったけど。」
「本当に大丈夫?保健室行く?」
「心配してくれて有難う。でも大した事ないから。」
「でも・・・」
「大丈夫だから!」
女子達が無理矢理黒寿の手を引いていこうとするのをその言葉で止めさせた。
若干怒っているんじゃないだろうかと言うくらい「大丈夫だから!」を強調していたが
言った本人は満面の笑みを浮かべている。
「そ、そっか。じゃあ良いや。」
女子達はオドオドしながら去っていく。

「何の真似だ?」
昼休みに黒寿に問い詰めてみた。
答えはもう解っている。だがそれは予想であって事実ではない。
事実が知りたい。
「君の監視と僕の仕事を両立する為だよ。」
予想通りの返答に一瞬眉間に皺が寄る。
「そうか。」
「薄々気付いてたんじゃないの?」
「そうだが・・・」
「なら良いじゃない。それに今日は君に初仕事があるよ!」
「初仕事だと?」
「そう。大切な事だから気合入れてね!」
その時、脳裏に男女の言い争う姿が映し出された。
「何だ!?これは・・・」
「惨劇のメモリーだよ。今回は彼らが主役みたいだよ。」
それは黒寿曰く惨劇が起こる前の予兆らしい。
今夜、どちらかが惨劇の主役となり、凶行に走るらしいからそれを処理しなければ
ならないらしい。実に面倒だ。
惨劇はちゃんと最後まで見届けてからではないと処理が出来ないらしい。
「全く・・・どいつもこいつも・・・」

夜23時。
泡海ヶ原公園。
「ったく!こんな時間に呼び出しやがって!」
夜遅く少年が一人ブツブツとぼやいている。
ガサッ
草村から音がしたのに驚く事もなく少年は振り向いた。
「-やっと来たか・・・呼び出しといて待たせるんじゃ・・・・!?」
少年は目の前に立つ相手を見て顔を強張らせる。
明らかに待ち合わせた相手と違うのだ。
「な、何でお前が此処に!?」
少女は問いには答えず少年に近づく。
「会いに来たの」
少女が問いに答えない事に苛立ち、少年は怒鳴る。
「だから何でお前が来るんだよ!?俺はアイツに呼ばれて来ただけだ!」
「呼んだのはあの子じゃなくて私だよ?」
少女の答えが気に入らないのか少年はまたも少女を怒鳴る。
「いい加減にしろ!まだ昼間の事が納得いかねぇのか!?」
「・・・・別れ話なんて・・・やだよ?」
解りきっていた事を口にした少女に怒りが込み上げてくる。
「もう俺達は恋人じゃねぇんだ!俺はもうアイツが好きなんだよ!お前なんかよりもずっと」
「・・・そう・・・なの?じゃあ、あの子に会いたい?」
少女の問いに少年は怒声を上げる。
「当たり前だ!」
少女は顔を伏せるとくすくすと笑い始めた。
「そう、なら今から会わせてあげる・・・」
少女は草村を漁る。そして其処から何かを取り出して少年の眼前に晒した。
「ホラ」
「!?」
それはさっき話していた今の恋人だった。
瞳は大きく見開き今にも零れ落ちそうだ。
そして眼前の彼女に首から下の体は無かった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」
余りの出来事に少年は絶叫した。
少女は持っていた首をボトっと地面に落とした。
「如何したの?会いたかったんじゃないの?」
少女は後退る少年に近づき尋ねた。
「う・・・・ぁ・・・・」
少女の問いには答えられず少年はその場を立ち去ろうとした。
だが少年の中の恋人を殺されたという事への怒りが込み上げてくる。
「お前!何で殺した!何でこんな事!こんな事して只で済むと思うのか!?」
少女は再び顔を伏せ、くすくすと笑い出した。
「だって・・・壊したかったんだもん・・・」
「は?」
少女が顔を上げた時、少女の白目部分は黒ずみ、黒目部分は赤く染まっていた。
まるで少女はもうこの世の者じゃないとでも言うかの様に。
「アンタモ壊レチャエ」
「ひっ!」
少年の悲鳴に少女は嬉しそうに少年に近づく。
少女は隠し持っていた包丁を手に少年の頭上に振り上げる。
「私ヲコンナニ傷付ケテアンタタチダケ幸セナンテユルサナイ」
「や・・・止めろ!止めてくれ!」
「サヨナラ」
少女が振り上げた包丁が少年の脳を割る。
凄まじい血飛沫が辺りを飛び散る。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
甲高い笑い声が響く。
「殺シタ!アイツラノ全テガ壊レタ!!私ダケ不幸ナンテ嫌!道連レ二シテヤッタヨ!!」
「気は済んだか?」
突如現れた声に少女は絶句する。
「憎い男と女を殺して少しは満足出来たか?」
「誰ダ!何処ニ居ル!?」
少女は正体不明の声に怒鳴る。
「憎い人間に同じ苦痛を与えられて満足なら・・・」
声の主が草村から姿を現す。殺鬼だ。
「オマエハ、死神!?」
「そうだ。お前を迎えに来た。」
その言葉に少女は声を荒げてこう言う。
「迎エダト!?死神ハ死者ニシカ迎エニ来ナイ筈ダ!私ハマダ死ンデナイ!
私ハコレカラ幸セに・・・・」
「なれない。」
「ハッ!?」
唐突な言葉に戸惑う少女に殺鬼は容赦なく現実に起きた事を説明する。
「何故ならお前はもう死んでいるからだ。」
その一言に少女は驚く事しか出来なかった。
「死因は交通事故。病院に運ばれた時にはもうお前は死んでいた。
運転手は責任を感じて自殺した。」
「ジャア何故私ハ此処ニ居ル!?」
「それはお前にこの世に悔いがあるからだ。その念が怨霊となって
この世に留まろうとする・・・そしてそれを阻止するのが私の仕事・・・」
殺鬼は黒衣から日本刀を取り出し、怨霊の少女に問う。
「覚悟は出来たか?」
怨霊の少女はその言葉で我に返り叫ぶ。
「巫山戯ルナァ!!」
怨霊の少女は震える拳を強く握り殺鬼に言い放つ。
「ナラ・・・オマエヲ殺シテ幸セニナッテヤル!」
そして殺鬼に持っていた包丁を振り上げる。
「死ネ!死神イィィィィィ!!」
叫びとともに包丁を振り下ろす。
ザクッ
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
怨霊の少女の腕が切り落される。
痛みに苦しむ怨霊の少女を見下ろすと感情のない声が言う。
「終わりだ」
振り上げられた日本刀が怨霊の少女を半分にかち割る。
「任務完了」
殺鬼がそう言うと何処からとも無く黒寿が表れた。
「どうだい?死神デビューの初仕事は?」
上機嫌な黒寿の言葉に冷たく言い放つ。
「ああ。最高の惨劇だったよ・・・・。」
その言葉に黒寿が歓喜の声を上げる。
「そっか~それは良かった♪」
その場を離れる二人を黒い影が見送る。
「あれが黒寿の契約者ね・・・黒寿が認めた唯一の人間・・・・
その力がどれ程のものか試してあげるわ・・・」
その黒い影はそう言って立ち去って行った。

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灰色の雲がさっきまで輝いた星空を覆う。
まるで光が闇に呑まれるかの様に・・・・

暗い部屋の中、少女が歌う。
「ハッピーバースデー皐月ー♪」
それは誕生日を祝う歌。
一人で少女は歌う。
自分で自分に祝う、死んだ眼をして唯歌う・・・

この部屋には今少女しか居ない。
身内が今日に限って大事な用事があるからだ。
父親は海外出張、母親は大企業との取引、妹は友達の誕生日会・・・
自分より他の用事の方が大事なのだろうか?
「私はまた少し大人になったよ・・・・祝ってよ・・・誰か・・・」

少女はテーブルに置いてあるナイフを手首に当てる。
「もう、こんな世界、嫌だよ・・・もう、いっそ・・・・」
赤い血が筋を作って垂れる。
「私の・・・人生を・・・遣り直させて・・・」
痛い筈なのに笑みが浮かぶ。
痛くて痛くて笑がないのに、唯笑って言う。
「誰か、私の・・・痛みを・・・癒して・・・」
少女の指が部屋の壁に血で図を描く。
逆十字に悪魔の羽の図を。
「死神さん、此処に・・・・私の所に来て・・・・」

灰色の雲が雨を降らす。
止めどなく降る。
乾いた地面を濡らすその様はまさに今の少女の心境そのものだ。
雨に濡らされた地面は黒ずみ、侵食されていく。

「僕を呼んだのは君?」
何時の間にか少女の背後に白い服を着た少年が立っていた。
「貴方が、死神?」
「そうだよ」
死神にしてはやけに白い・・・少女はそう思った。
「私と・・・契約・・・・して?」
消え入りそうな少女の声、少年は少女に近づき囁く。
「良いのかい?死神との契約はこれからの君の未来を奪う事になるよ?」
少女は涙を浮かべて自虐的な笑みを浮かべ、こう言った。
「これから・・・私にどんな未来があるの?それは私の痛みを消すもの?
・・・私はもう未来なんて要らないの・・・明るいか暗いかも解らないそんな未来は・・・
そんな気紛れな未来なんて要らない!私と契約して!」
「本当に良いんだね・・・もう後戻りは出来ないよ?」
少年は少女の首筋に手を這わせる。
「うん、もう覚悟は出来てるから・・・」
「じゃあ、契約するよ。
今宵、天音皐月と儚射黒寿は契約する。
これから天音皐月は死神として生まれ変わり、新しい存在になる。
代償は、天音皐月の未来。」
少女の首筋を這う手が少女の首筋にめり込む。
「・・・・っう!」
「大丈夫、直ぐ終わるから」
少年が首を抉る。そして手を抜くと少女の首に首輪が巻かれる。
「これは?」
「これは僕と君の契約の証。これは僕以外外せないよ。」
「まるで、お前に飼われているみたいだな。」
少女の声が低くなった。少年は少女を見る。
さっきまで優しそうだった少女の眼も声も鋭くなっていた。
「皐月?」
「それが私の名前か。その名前は今日から殺鬼にする。
そんな忌まわしい名前など持たない。私は殺鬼だ」
言葉を失った少年が困ったように言う。
「ハハハ、飼われいる・・・良い例えだね。でもそれなら僕も飼われているって事だね」
「どういう意味だ?」
少年は服の釦を外し、首を見せた。
「こういう事さ。」
少年の首にも緑色の首輪が着いていた。
デザインは違うがそれは確かに首輪だった。
「死神はね、皆首輪を着けてるんだ。生まれた時からずっと・・・ね。」
「ほぅ?」
「僕等は死を司る神、けれど上には上がある。だからこうして制限をつけられるんだ。
それは人間も同じだろ?」
「ああ。」
殺鬼は静かに頷いた。
黒寿は殺鬼に日本刀と黒いマントを渡した。
「仕事する時はこれを着てね。仕事内容は惨劇の回収と怨霊の処理。」
そう言って黒寿は消えていった。
「惨劇の回収に怨霊の処理か」
殺鬼は呟く。

「お姉ちゃん、まだ起きてるの?」
妹の刹那が帰って来た。
だが其処に殺鬼の姿は無い。
鮮血で描かれた紋章も消えていた。
「お姉ちゃん?何処?」
刹那は眼に涙を浮かべて床にへたり込んだ。
「やだよ・・・お姉ちゃん・・・何処にも行かないでよ・・・」
その声はもう皐月に届く事は無い。
もう、この世に皐月は居ないのだから・・・・

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登場人物紹介


天音 殺鬼(あまね さつき)
年齢:13歳(中1)
性別:女  誕生日:8月25日  
星座:乙女座  血液型:AB型   
身長:165cm  体重:45k
物語の主人公。母親からの精神的虐待に耐え切れず
死神と契約し、死神になる。
契約前は殺鬼ではなく皐月という名前だった。
契約前の性格は大人しく、控えめで他人の事を考えて
行動する、優しい性格だった。
契約後の性格は冷たく素っ気無い。
時には残酷な事も平気で行う。
母親の元を離れて一人暮らしをしている。


儚射 黒寿(はかない くろす)
年齢:13歳(中1)
性別:男   誕生日:2月14日 
星座:水瓶座   血液型AB型
身長:172cm   体重:52k
殺鬼と契約した死神。殺鬼をからかったりするのが好き。
殺鬼を監視すると言う意味で殺鬼の通う学校に転校する。
明るく楽観的で女子に人気だが、偶に冷酷な事を言う。
ある意味謎だらけな存在である。


草凪 絆(くさなぎ きずな)
年齢:13歳(中1)
性別:男    誕生日:5月5日
星座:牡牛座    血液型:A型
身長:173cm    体重:54k
殺鬼のクラスメイト。皐月とは幼馴染だが殺鬼とは友達の様な関係。
家庭の事情で弟と二人で暮らしており、頼りになる。
運動神経が良いので体育の時は活躍する。
女子からの人気は今一だが男子からは人気である。
本人は話し掛けられたら返す程度で状況としては複雑である。


騎羅畏 真龍(きらい まろん)
年齢:13歳(中1)
性別:女    誕生日10月28日
星座:蠍座      血液型:B型
身長:163cm     体重42k
黒寿の幼馴染。死神界で有名な人形師。
黒寿の婚約者でもあり、親族の前では淑やかに振舞っている。
言葉遣いは優しげだが腹黒なので笑顔で黒い事を言う。
親族の双子を預かっている。


覇月 心愛(はづき ここあ)
年齢:12歳(小6)
性別:女     誕生日:6月6日
星座:双子座      血液型AB型
身長:154cm       体重:38k
真龍と同居中の双子の姉。無表情・無口なので何を考えているのか解らない。
無機物の声や人間の心が読める。
弟の世話をしたり真龍からの遣いとして行動する事が多い。
何事にも冷静だが表情が無いので微妙な声の調子で表情を
見分けないといけないのが厄介である。



覇月 心(はづき こころ)
年齢12歳(小6)
性別:男      誕生日:6月6日
星座:双子座       血液型:AB型
身長:154cm         体重:38k
心愛の双子の弟。姉の心愛に比べて表情豊かである。
しかし殆ど笑顔なので本当に笑っているのが何時なのか解り辛い。
そういう意味では姉の心愛に似ているのかも知れない。
心愛に引っ付いているが甘えている訳ではないらしい。
姉への依存からくる行動らしい。
心愛が無機物の声が聞こえるのに対し、人間の精神を侵し操るのが得意。
人間の事は玩具だと思っている。


闇城 黒羽(やみしろ くろう)
年齢:13歳(中1)
性別:男       誕生日:9月6日
星座:乙女座        血液型AB型
身長:171cm          体重:49k
黒寿の従兄弟。死神界で有名な召喚獣師の一族の一人。
二重人格で朝と夜で人格が違う。
殆ど朝の人格が登場するが死神としては夜の人格の方が優れている。
朝の方の人格はオドオドしていて頼りなく少々天然。
黒寿を信頼していてその契約者である殺鬼に興味がある。
夜の方の人格は朝の方の人格に比べると堂々としており、
口調が「僕」から「俺」になる。
黒寿の事を信用していないらしく、黒寿の事を敵視する事も多々。


氷室 凍魔(ひむろ とうま)
年齢:13歳(中1)
性別:男        誕生日:10月10日
星座:天秤座         血液型:B型
身長:175cm            体重:54k
黒寿の従兄弟。黒寿の事が兎に角嫌い。
面倒臭がりだが何だかんだ言って黒羽(朝の)の面倒を見にいったりする。
上に姉と兄が居る。姉の事は恐れているが兄の事は可也嫌い。
凍魔曰く「胡散臭い」かららしい。黒寿の事が嫌いなのも同じ理由らしい。
本人的には黒羽がお気に入りらしい。


覇月 迷砂(はづき めいさ)
年齢:不明(社会人)
性別:女        誕生日:10月31日
星座:蠍座         血液型:AB型
身長:162cm             体重:43k
覇月姉弟の母親。仕事優先な性格な為心愛と心の世話は7歳迄しか
しておらず、それ以降は自立力のある真龍に世話を任せている。
偶に我が子の様子を見に来るが直ぐ仕事に戻る。
心愛と心は迷砂が二人に近づくとそれに反応して気付くらしい。
死神界の最高責任者の一人にして4大貴族の現頭首の一人。
因みに後の3人は黒寿の姉、黒羽の父、凍魔の姉の3人である。


氷室 祭牙(ひむろ さいが)
年齢:17歳(高2)
性別:男        誕生日:8月3日
星座:獅子座         血液型:B型
身長:184cm             体重:56k
凍魔の兄。仕事と称して遊びまわる事が多いので良く姉に怒られる。
人の問題に首を突っ込んだり、面倒事に無理矢理入って来たりする。
そのくせ飽きっぽいのでそれも凍魔に嫌われる理由らしい。
自称紳士と名乗っているが実際は怪しい所である。
甘い言葉を囁くが殆ど冗談である。


氷室 呪厘亜(ひむろ じゅりあ)
年齢:20歳(社会人)
性別:女         誕生日:3月3日
星座:魚座            血液型:B型
身長:182cm              体重:58k
祭牙と凍魔の姉。死神教育委員長及び4大貴族の頭首。
長身スタイル抜群の美女だが中身は究極のドS&鬼畜。
祭牙と凍魔が喧嘩すると鉄拳で止めにくる。
両親からも恐れられるほどの才能と圧倒的強さを持っている。
寝巻きの下とトランクスを間違えて穿くのが玉に瑕。



騎羅畏 真珠(きらい まじゅ)
年齢:25歳(社会人)
性別:女         誕生日:4月1日
星座:牡羊座          血液型O型
身長:178cm              体重:55k
真龍の姉。殺鬼の通う学校の保健室の教師として堕國蓮樹の
監視を行っていたり、他の死神やそれに関する異変を監視する。
騎羅畏家も嘗ては5大貴族達の仲間だったがある理由で5大貴族を
追放された。なので今は4大貴族である。
情報操作と証拠処理等を行うので組織的には必要な存在。
死神界の嫌われ者だが人形を作ると言う意味では一流である。


堕國 蓮樹(だこく はすき)
年齢:13歳(中1)
性別:男          誕生日:12月25日
星座:山羊座           血液型:A型
身長:170cm                体重:52k
殺鬼の通う学校の1年。殺鬼とは道端で話して知り合った。
霊感が強く、偶に謎めいた発言をする。
病弱で運動が出来ない為、クラスの人と一緒に運動したいと思っている。
真珠が自分を監視している事を後に知る事になる。


天音 刹那(あまね せつな)
年齢:11歳(小5)
性別:女          誕生日:11月11日
星座:蠍座             血液型:AB型
身長:145cm                 体重:32k
皐月の妹。皐月の唯一の理解者。
皐月が殺鬼として死神と契約し、死神になった事は知らない。
再開した時は既に殺鬼になっていた為違和感を感じる。
性格は活発で明るいので両性からも人気。
皐月が殺鬼になってから一人暮らしを始めてからは母親と二人で暮らしている。

草凪 聖(くさなぎ ひじり)
年齢:11歳(小5)
性別:男           誕生日:3月3日
星座:魚座             血液型:A型
身長:146cm                 体重:35k
絆の弟。絆と二人で暮らしている為家事は得意。
外見が女の子らしい事にコンプレックスがあり、それに関して同級生にからかわれる。
殺鬼がまだ皐月だった時に関わりがある為殺鬼に違和感を感じる。
刹那とは可也仲が良いので周りからカップルだと言われたりしてからかわれる。

鬱海 紅実(うつみ ぐみ)
年齢:不明(未成年?)
性別:女           誕生日:1月1日
星座:山羊座           血液型:O型
身長160cm                 体重:42k
ある日突然蓮樹の前に現れた少女。
人探しをしているが手掛かりが全く無く途方にくれていた所を蓮樹と出会う。
蓮樹に強い霊感がある事が理由で人探しを手伝って貰う。
後の閻魔大王だが、兄の蒼裁が居ないと仕事が上手くこなせない。
口調が僕なので蒼裁と二人揃っている時は声だけだと聞き分けられない。

鬱海 蒼裁(うつみ そうさい)
年齢:不明(未成年?)
性別:男           誕生日:12月31日
星座:山羊座            血液型O型
身長:165cm                 体重:45k
紅実の探し人。不自然な魂の動きを捜査していただけで行方不明にはなっていない。
蓮樹に違和感を感じ、紅実に注意する様告げる。
後の閻魔大王として充分な力を持っており、紅実とは似ても似つかない。
本人的には紅実がいなくても仕事は出来るが、引っ付いて来るから
構うでもなく世話をするでもなく放置するという。
二人でしなければならない仕事は協力して遣る。

翡翠 響(ひすい ひびき)
年齢:17歳(高2)
性別:男・女         誕生日:7月1日
星座:蟹座             血液型:A型
身長:171cm                 体重:56k
オッドアイを持つ。男と女の両方の性別を持つ。
普段は男の姿だが何かの前兆があると女になる。
不協和音に反応して性転換する事が多いので見ていて混乱する。
男の時と女の時は外見以外に変化は無い。
女になると呪厘亜に並ぶほどのダイナマイトボディを誇る。
内気なので男子から見ると小動物みたいだという事で好評を得ている。
何故性転換するのか、何故そうなるのかは不明。

闇城 輪廻(やみしろ りんね)
年齢:18歳(高3)
性別:女           誕生日:8月3日
星座:獅子座            血液型:AB型
身長:165cm                  体重:45k
黒羽の姉。闇城家次期頭首。
内気で頼りない朝の黒羽に比べて頼りになるが乱暴な解決の仕方をする。
確り者だと大人達から信頼を得ているが実際はキャラを作っているだけ。
料理が破滅的なまでに下手糞。
容姿は子供じみているが中身はそれ相応である。

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