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日々の出来事等を徒然と。偶に鬱状態になるので御注意下さい。   
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土手に二つの影が向き合っていた。
「皐月御姉ちゃんだよね?」
「・・・刹那・・・なのか?」
殺鬼が「なのか」と訊くのは殺鬼として刹那に会ったのが初めてだからだ。
刹那は殺鬼の言葉に疑問すら抱かず上目遣いに殺鬼を見上げて笑う。
「私の事覚えてるの!?嬉しいなー」
「ああ、勿論だ。」
一瞬、殺鬼の言葉遣いにに違和感を覚えたがこんなに似た人物が他に
居るわけがないと思った刹那は殺鬼に歩み寄り不安げな表情で殺鬼を見上げる。
「私ね、御姉ちゃんは私と御母さんが嫌いになったから、
だから出て行ったんだと思ったんだけど・・・」
刹那の言葉に一瞬黙り込む。
確かにあの家を出て行ったのは母親と居たくないからだ。
刹那を連れて二人で暮らす事も出来たが死神の仕事をしている為
不審に思われるだろうと思い一人であの家を出て行ったのだ。
「そんな訳無いだろ。母さんは兎も角、刹那を嫌いになる理由がない・・・」
「え?」
刹那の顔から不安が消えていく。
殺鬼が今迄見せた事も無い笑みを浮かべて答える。
「それに刹那は私の大切な妹だ。嫌いになんてならないよ」
さっきまで別人かもしれないと思っていた人物が
一瞬だけ自分の姉であった皐月とかぶった。
刹那の頬が赤く染まる。照れているのか声が震えている。
「本当?私の事嫌いじゃない?」
「ああ、本当だ。だから・・・」
少し間を置いて言う。あの時の言葉を。
「刹那は何も心配しなくて良いんだ」
あの時の言葉を言われてか刹那の眼が見開かれる。
「-え?御姉ちゃん、それ本当?」
途切れ途切れに言うと今度は顔をうつ伏せて飛びきりの笑顔で尋ねる。
「じゃあ、今度の土曜日、遊んでくれる?」
刹那が何を言っているのか一瞬理解出来なかった。
徐々にそれを理解した殺鬼の頬が僅かに赤くなる。
あの家を出て行った日から顔も会わせていなかった妹が
一緒に遊ばないかと誘ってくれたからだ。
「ああ、私で良いなら何時でも良いぞ」
刹那はさっきよりもより嬉しそうに笑う。
「じゃあ今週の土曜、10時に此処で待ってるね!」
「ああ」
そうして二人は別れた。互いの胸に期待を秘めて。

帰宅後も殺鬼の心には嬉しさと期待が溢れていた。
思えば死神になってからこんなにも心踊らされた事は無かっただろう。
無意識のうちに笑顔を浮かべていた。
刹那と過ごす休日の事を考えると早く朝になって欲しかった。
そんな思いもあってか何時もより早めに風呂に入った。
風呂に入ったと言っても軽くシャワーを浴びただけだ。
寝巻に着替え、軽く夕食を摂った後、奇妙な気配に気づいた。
その気配には覚えがあったが、以前関わった時と明らかに違っていた。
折角風呂に入って夕食も済ませたというのに・・・と内心ぼやいていた。
気配の出所を探ると愛用している黒衣と日本刀を持って気配がする場所へ向かった。

高層ビルの屋上に殺鬼と気配を発していた主が対峙していた。
「お前・・・黒羽か?」
気配を発していたのは紛れもなく黒羽だった。
殺鬼は本人を見た今でも信じられないと言った様子だ。
だが目の前に立つ人物は他でもない闇城黒羽だ。
長い赤髪、細く色の白い肌・・・こんな外見の奴は中々居ないだろう。
昼間よりもより黒い衣装を身に纏い、片手に巨大な鎌を携えている。
「天音殺鬼・・・・何故俺の名を-・・・・ああ、そうだったな・・・」
自問自答すると黒羽は殺鬼を見下ろす。
その目は普段の大きく優しい眼差しではなく、
何もかもを射るかのような細く鋭い眼差しだった。
何より声も口調も違った。声は普段の声を低くしたようなもので、
口調は「僕」から「俺」に変化している。
そんな黒羽に似た存在に再度確認するように訊く。
「お前・・・本当に黒羽か?」
「そうだ」
殺鬼の知る黒羽と今の黒羽はまるで別人だった。
それだけに信じられないのだろう。
もう1度訊く。
「お前は誰だ?」
「さっき自分で俺の名を呼んだだろ・・・俺は闇城黒羽。
歴史に名を刻む死神一族の一人・・・・
召喚式魂破術(しょうかんしきこんぱじゅつ)の継承者・・・」
歴史に名を刻む死神一族?召喚式魂破術?聞き覚えのない単語に疑問を抱く。
「何だそれは・・・死神にも流派が存在するのか?」
「そうだ。死神の技にも流派が存在する。死神と人間に大差は無いからな・・・」
殺鬼は一番疑問に思った事を訊いた。
「普段私達と一緒に居る黒羽は本物なのか?
それともお前が正真正銘本物の黒羽なのか?」
その言葉に黒羽は一瞬考え、そして答えた。
「両方とも外れだ。普段お前達と居る俺も今の俺も正真正銘本物の銘闇城黒羽だ。
お前達の言う二重人格みたいなものだ。」
二重人格?黒羽が?
「お前達の知る『黒羽』は『朝』の『黒羽』・・・・俺は『夜』の『黒羽』・・・
つまり闇城黒羽は『朝』と『夜』で人格が変わるということだ。」
黒羽の言っている事は真実だろう。こんな嘘を吐いても何の意味も無いのだから。
「黒寿はお前が二重人格だという事を知っているのか?」
黒羽の表情が少し暗くなる。
「俺には何とも言えないが薄々気付いているだろうな」
そう言うと続けるように言う。
「言っておくが『朝』の俺は自分が二重人格だとは気付いてないぞ。
気付いていたなら黒寿に相談するだろうな。」
「『朝』のお前はそんなにも黒寿を信頼しているのか?」
「そうだろうな。だが・・・俺は信じてなどいない。
儚射黒寿は何を考えているのか全く解らない・・・・・
『朝』の俺は奴を信じていたが・・・・俺は奴を信じていない」
確かに黒寿は何を考えているのか今一解らないが今のところ死神の中では
一番付き合いが長いという事もあってか信じている部分もある。
「だが・・・黒寿と契約した者の力がどれほどのものなのか・・・それには興味がある」
不意に黒羽が言う。そして更に・・・・
「手合わせ願おう・・・・天音殺鬼・・・・」
「良いだろう」
黒羽の唐突な申し出に即答すると殺鬼は懐から日本刀を抜くと、身構える。
「行くぞ」
そう言うと黒羽は手にしていた巨大な鎌を力強く握る。
「来い」
殺鬼が言うと黒羽が鎌を振り上げ勢い良く床に突く。
すると鎌が光り出した。
そしてそれは床に広がり、其処から人の形をしたものが姿を現す。
ゆっくりと床から現れるそれは人間の女の姿をしている。
徐々にその姿がハッキリと見えた。
長髪黒髪に猫耳が生えていて黒い服を着ている。尻尾も、付いている。
「これは・・・」
「コイツは召喚獣、『猫娘』(ねこ)だ。」
朝の黒羽の召喚していた猫とは明らかに違う。
朝の黒羽が召喚していたのは何の変哲もない猫だが
今の黒羽が召喚したのは人間の女に猫耳を着けたな姿だ。
猫娘の瞳が少しずつ開く。
そして黒羽に歩み寄る。
「御呼びですか?マスター」
「ああ、お前の力を貸してほしい。
あそこに居る死神を倒してほしいんだ。出来るか?」
確認するように尋ねると猫娘はニッコリと微笑み「はい」と答える。
猫娘が向きを変え、殺鬼の方を振り返る。
そして少しずつ歩み寄ってこう告げる。
「主の為に貴方を倒します。天音殺鬼さん」
「ほう・・・」
殺鬼がそう言った瞬間だった。
「え?」
猫娘の首筋に何時の間にか殺鬼の日本刀の刃先が当てられていた。
そしてしれをずらす。すると猫娘の首は呆気なく斬れる。
完全に斬り落とされなかったが頸動脈が完全に切断され、
そこから大量の鮮血が噴出する。
「あ・・・・あ・・・・ぁ・・・・・ああ・・・・・」
猫娘の眼が白目をむき、体は痙攣して震える。
「悪いが私もそう簡単に倒れるわけにはいかないんでな。
黒羽、コイツはもう戦闘不能だ。」
殺鬼の言葉に反応したのか白目をしていた
猫娘の眼がぎょろっと殺鬼の方を見詰る。
「この状態でまだー・・・!?」
殺鬼が言い終わらない内に背に重みを感じて後ろを振り返る。
すると自分の背にさっき斬り殺したであろう猫娘がしがみついている。
殺鬼の肩を確り(しっかり)と掴んでいる。
そしてさっき斬ったはずの首の傷が消えていた。
何が起こったのかと状況を理解しようとする。
「ねぇ、私まだ戦えるよ?だから一緒に遊びましょ?ねぇ?殺鬼ちゃん」
挑発するような口調で囁かれる。
致命傷だった筈の傷口がまるで無かったように消えている。
が、噴出した血は服に付着している。・・・ということは・・・・
「私ね、殺鬼ちゃんと友達になりたいの。だからね・・・もっと抱き締めさせて?」
すると猫娘の髪が巨大な刃物に変わる。
若し自分の考えが正しいなら厄介だ。
以前の天使の時と同じ高速回復。
あの時は直ぐに代替物となるものを見つけられたが
今回の動力源は恐らく黒羽本体だろう。
ならば猫娘の気力を失わせるまで攻撃すれば良いのだが・・・
「くっ!」
確りと掴まれる肩、身動きが取れないこの状態であの刃物で
致命傷を負わされたらこちらの命が危ない。
「うふふふふ・・・後少しですよ主。」
その言葉とともに振り上げられた巨大な刃物が
殺鬼の頭上目掛けて振り下ろされる。
「あ、れ?」
余りの事で状況が理解できず猫娘が口をパクパクさせる。
猫娘の腹部からは血が滴り落ちる。猫娘は視線を自分の腹部へ移す。
すると猫娘の腹部に殺鬼の日本刀が刺さっている。
自分の髪で作った刃物は片手で殺鬼が掴んでいる。
「な・・・・何で?」
「さぁな。詰めが甘かった・・・とでも言っておこうか」
そう言うと殺鬼は猫娘の首筋に片手で掴んでいる刃物を当てる。
ひんやりと冷めた感触に鳥肌が立つ。さっきまで自分の一部だったのに。
「己の作った刃で切り刻まれるが良い」
冷たく言い放つと覚悟を決めたのか猫娘が目を閉じ、涙を溢れさせる。
「・・・・・お前、再生しないのか?」
思いもよらない殺鬼の言葉に閉じていた目を開く。
「え・・・・・?再生はまだ一度しか出来ません・・・まだ、未熟ですから」
猫娘の言葉に少し黙り込む、そして・・・・
「!?」
がくんと猫娘の体が崩れ落ちる。突然何が起こったのかと目を見開くと
さっきまで腹部に刺さった日本刀が抜かれているのだ。
腹から大量に血が流れ若干痙攣をおこしながらも
疑問に満ちた目で殺鬼を見詰る。
「ど、如何して!?何故止めを(とどめ)を刺すのを止め(やめ)たの!?」
言葉が震えている。傷の痛みと動揺で震えているのだろう。
殺鬼は溜息交じりに言う。
「天使や怨霊なら兎も角、弱った同胞を殺すなんて馬鹿げてると思ったからだ」
その時、猫娘の脳内で何かが閃いた。
(同胞、仲間、友達?・・・友達!?)
脳内の思考が絞り出した結論に思わず頬が赤く染まる。
「有難う!殺鬼ちゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
大声でそう言われたかと思うと物凄い勢いで飛びかかって来た。
抱きつくように殺鬼の肩を掴み、涙をためて殺鬼の顔を覗き込む。
「?」
猫娘の行動と言動の意味が理解出来ず半ば混乱していると猫娘が
涙を拭いながら震える声を出して言う。
「私みたいな下僕を友達だなんて言ってくれるなんて・・・」
猫娘の言いたい事を察した殺鬼が猫娘の眼を見据えて言う。
「私は只、当然の事を言ったまでだ。」
ここまでは普通の返答だった。が・・・・
「お前、結構可愛いな」
不意に心の中で猫娘の純粋な思いを可愛いなと思ったのがつい口に出た。
殺鬼の言葉に益々顔が赤くなる。
「殺鬼ちゃ~ん!!」
「うお!?」
猫娘が殺鬼を押し倒す。気を抜いていたせいかあっさりと倒れてしまった。
身を乗り出して猫娘がそっと顔を近づける。
「私、今とても幸せです。だからこの幸せを殺鬼ちゃんにも分けてあげますね!」
「?」
猫娘の行動の意味が理解出来ずにいると猫娘の手が殺鬼の頬に添えられる。
「!?」
体が強張る。一体何をする気なのか?
猫娘の顔が近づいてくる。そして・・・
唇と唇が重なり合う。殺鬼は目を開いたままだが猫娘は目を閉じている。
状況的には少女漫画のキスシーンが当てはまるが
それは女同士のキスという異様な光景だった。
猫娘が唇を離す。
「どう?殺鬼ちゃん、私の思い、伝わった?」
キスをされたのにも関わらず照れもせずこの行為の意味を問う。
「幸せな時は接吻をするものなのか?」
「ええ、そうなん・・・」
「一寸(ちょっと)違うな・・・」
猫娘の言葉を遮って黒羽が会話に割り込む。
「主!?」
自分の使命を思い出すと申し訳なさそうに頭を下げる。
「済みません主!主の願いを叶えられなくて・・・」
すると意外にも黒羽は優しい口調で猫娘に言う。
「いや、良いんだ。俺の望みは叶ったんだから」
「え?」
言葉の意味を理解しようとすると黒羽が殺鬼の方を指さした。
「今、天音殺鬼は倒れているからな」
確かに今、殺鬼は倒れている。
その言葉に驚いた猫娘は混乱しながら再度確認する。
「え?え?倒すってこんなのでも良かったんですか!?」
「ああ。倒れていれば良いんだ」
そんな事で納得するものなのかと殺鬼が考える。
そして黒羽が狙っているのかそうじゃないのか解らない事を言う。
「何よりお前が無事ならそれで良い・・・」
その言葉に更に猫娘の顔が赤くなる。
(強引だな・・・・いや、ベタか・・・)
殺鬼が呆れたように二人を見ていると黒羽が殺鬼の方を振り向く。
「天音殺鬼・・・中々良い勝負だったぞ。
それと、今日の事だが、秘密にしておいてくれ。」
口外する心算は無かったが「ああ」と返しておいた。
付け足すように黒羽が言う。
「それからもう一つ。幸せを分かつ方法は
色々ある・・・それは人それぞれだ・・・また会おう・・・」
それだけ言うとふっと、二人の姿が消えた。
殺鬼は踵を返して自宅へ向かう。

土曜日。殺鬼は木曜日に刹那と再会した場所に立ち尽くしていた。
黒羽の言葉の意味を理解しようとあらゆるパターンを考えていると
聞き覚えのある声が聞えて来る。
「御姉ちゃん!」
息を切らして眉をハの字にする刹那が居た。走って来たのだろう。
「御免、待った?」
「いや、大丈夫だ」
短く言うと行きつけの喫茶店に向かう。
髪を頭の上部で纏めて結んでいるのでさほど暑くも無い。
刹那は短髪なので言うまでも無く涼しそうだ。
喫茶店に向かっている間、刹那が話しかけてくる。
学校での事、友達の事、家での事・・・色んな事を話す。
喫茶店に着くと殺鬼は早々に「ダージリンティーを一つ」と注文し、
刹那も少し合わせるように「クリームソーダ一つ下さい!」と元気よく言う。
座れそうな所を見つけ、其処に座る。
数分後、注文した物が来てそれを口にする。
殺鬼の方からは何を話すわけでもなく刹那を見据えている。
刹那は上目遣いに殺鬼を見詰て口を開く。
「御姉ちゃん、変わったね。」
刹那の言葉に「そうか?」と返す。
「そうだよ!家を出る前はそんなに堂々としてなかったし!
家に居る時だって思い詰めた顔してて苦しそうだったから・・・・
御姉ちゃんが家を出てった日、御姉ちゃんの誕生日だったよね?
御母さん、凄く泣いてたよ?」
刹那の言葉に沈黙する。
あの母親が泣いていた?自分を貶す事しかしなかったあの母親が?
「そうか・・・」
間を置いてそう返す。
喫茶店を後にし、刹那を連れて自宅へ向かう。

自分の部屋の鍵を解錠し、扉を開く。
中は殺風景で唯一自分の趣味として持っているものが大量の本だった。
殺鬼にとって本を読むことはストレスを発散するようなものだ。
刹那は部屋の中を眺めるとあるものに目を奪われた。
それは棚の上にある写真立てだ。中には何の写真も無い。
「この写真立て何も入ってないけど・・・」
「ああ、今それに入れるべき写真が無いんだ」
殺鬼の言葉に刹那の表情が一瞬曇る。
そして不意に殺鬼の方を振り返る。
「じゃあ、私と撮ろうよ!御姉ちゃんが私を忘れないようにさ!」
元気よくそう言う。殺鬼は少し驚いた表情だ。
「私は刹那を忘れたりしないぞ」
「それでも、撮って欲しいの。思い出に・・・ね?」
「そうだな。無いよりはマシだろうしな。」
だがこの言葉に後悔するのはそう遅くは無かった。
「さぁ、御姉ちゃん!笑って!」
「あ、ああ・・・」
カメラ片手に刹那が指示する。殺鬼は若干焦っていた。
死神になってからというもの笑った覚えが無い。
それでも自分なりに頑張ってはみるもののどうも上手く笑えない。
眉間に皺を寄せ、口を引き攣らせ目を誤魔化そうと閉じる。
「せ、刹那・・・もうこれ以上は・・・」
言い終わらない内に刹那が言う。
「御姉ちゃん」
「?」
刹那に呼ばれて閉じた目を開く。
間を置いて、刹那が満面の笑みを浮かべる。
「大好きだよ!」
思考回路が停止する。そして頬が赤く染まる。
かと思うとさっきまで笑えなかった筈なのに自然と笑えた。
「私も刹那の事が大好きだ!」
そう返すと刹那は照れた表情で手早くカメラをセットし、殺鬼の隣に行く。
殺鬼は刹那の頭を撫で、抱き寄せた。
二人が幸せそうに笑うとカメラのシャッターを切る音が聞こえた。

「はぁ~今日は楽しかったな~」
刹那は満足げに写真立てに写真を入れる。
今日はお互いに楽しめた。そして同時に色々な事を学んだ。
刹那が楽しめたのならと、それだけで殺鬼は満足だった。
(大切な妹、掛替えのない存在・・・
壊してはいけない・・・壊されない様に守らなければ・・・
この笑顔を失わない様に・・・・)
そう心に誓った殺鬼は、帰り際、刹那を抱きしめた。

天界。天界総合病院の一室。
ベットに白髪の天使が横たわっていた。
傍には担当医と看護婦が立っている。
「有寿(ありす)の容体はどうだ?」
「はい、大分落ち着きました」
有寿と呼ばれたのは以前殺鬼に重傷を負わされ、
今ベットに横たわっている天使の名前だ。
あの戦いの後、致命傷を負いながらも天界に帰還し
傷を治しているのだ。あの戦いから3日、未だ目を覚まさない。
食事は点滴で栄養分を補給しているので問題ない。
「そうか・・・然し有寿程の天使にあんな重傷を負わせるとは・・・・」
有寿は死神抹殺部隊でも名の知れた天使だ。そこらの天使とは格が違う。
知的で戦闘能力も兼ね備えた天使で他の天使達が羨む存在だった。
「相手は死神ですから・・・
何より人間から死神に成り果てた特殊な死神でしたし・・・」
カーテンが風に靡く(なびく)。それに合わせるように声がした。
「有寿じゃあの死神は倒せないわ」
「!?」
二人が絶句すると声の主はくすくすと笑う。
姿を現した声の主は黒髪に黒い服、外見は有寿に瓜二つだ。
解りやすく言うと有寿の黒く染まった姿だろう。
「お前は有鎖(ありさ)!」
担当医が声を張り上げて言う。
有鎖は不敵に笑う。
「あら、覚えて貰えているなんて、光栄だわ」
その挑発的な言葉に担当医は更に声を張り上げて言う。
「当然だ!お前は-・・・」
そう言いかけた時、ベットに横たわっていて
目を覚まさない筈の有寿が叫んだ。
「姉さん!?」
上体を起き上がらせ、泣きそうな表情で有鎖を見詰る有寿。
「姉さんでしょ?有鎖姉さんでしょ!?」
有り得ない現象に担当医が声を上げる。
「有寿!?」
有寿の意識が戻った事を確認した有鎖がニヤリと笑う。
「久し振りね有寿・・・」
そう言って有寿に歩み寄り、抱き締めた。
「良かった!無事に帰ってきてくれて・・・。
御免ね・・・姉さんも一緒に行けばよかったのに・・・・こんなに怪我して・・・・・」
「い、いえ、姉さんは悪くないです!悪いのは私!
私が弱かったから・・・だから・・・その・・・」
唐突な姉の行動に混乱する。
互いの表情は見えないように抱き締めたのでどんな
表情をしているのかは解らない・・・が、有鎖にだけは有寿の表情が解った。
姉であり、妹の事は何でも知っているからだ。
こうすれば妹は何時も混乱して、顔が紅潮する。
有鎖は抱き締めていた手を離すと窓際に歩み寄った。
「でもこれ以上可愛い妹を傷付けるわけにはいかないわ・・・・
私は神からの指令を伝えに来たの」
「指令?」
担当医と看護婦は顔を見合わせた。
有鎖は続ける。
「神は考えた・・・若し、天音殺鬼の様な人間が増えて、
特殊な死神が増えたら厄介でしょ?
だから全天使にこう命じた・・・『何を犠牲にしても死神を狩れ』と。」
有鎖の言葉に担当医の顔から血の気が引く。
「そんな事、信じられるか!大体お前は-・・・」
担当医の声を遮って看護婦が怒鳴る。
「先生っ!!」
看護婦の怒声に担当医が我に返る。
「済まない・・・」
「有鎖さん、続きは別室で・・・」
「ええ、良いわ。」
看護婦に案内されその場を後にしようとした時だ。
「姉さん・・・・あの・・・・・」
有寿の言いたい事を察した有鎖が有寿の方を振り返って言う。
「言いたい事は解るわ。でも今は怪我を治す方が先よ。
話はそれからでも遅くないわ。」
その言葉に有寿は悲しそうな表情で「はい」と答えた。
「そんな顔しないで。後でちゃんと話すから。」
そう言って有寿の病室を後にした。
(だって貴方は私の大切な妹なんですもの・・・)
そう呟きながら不気味な笑みを浮かべ、有鎖は別室に向かった。

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